
「また○○さんが夜中に歩き回っている…」
「急に怒り出して対応が難しい…」
認知症ケアの現場では、このようなBPSD(行動・心理症状)への対応に悩む場面が日常的にあります。
しかし、こうした言動を「問題行動」として抑えるのではなく、「意味のあるサイン」として捉える視点が重要視されるようになってきました。
かつては、徘徊には抑制、興奮には薬物、といった対症療法的な対応が中心でした。
しかし現在は、「なぜその行動が起きているのか」を起点にケアを考えることが求められています。
BPSDは“原因”ではなく“結果”である
BPSDは認知症の中核症状(記憶障害、失認、失行、実行機能障害など)を背景に、環境や関わり方が影響して現れる「結果」です。
たとえば、
・ウロウロ…トイレの場所が分からず不安になり歩き回る(徘徊)
・イライラ…思いを言葉にできず苛立つ(興奮・攻撃的言動)
・ソワソワ…周囲の状況が理解できず混乱する(不安・不穏)
これらはすべて、「困らせようとしている」のではなく、「困っている状態の表現」です。
つまり、BPSDへの対応は「行動を止めること」ではなく、行動の背景にあるニーズを読み解くことから始まります。
よくある事例から考えてみる
施設に入所して間もないAさん。
夜間になると居室を出て歩き回り、時に他の利用者の部屋に入ってしまうことが続いていました。
スタッフ間では、「センサーをつける」「睡眠薬を検討する」といった意見が出ていました。
しかし、情報を整理すると次の事実が見えてきました。
・日中は自立してトイレに行けている
・夜間は照明が暗く、トイレの場所が分かりにくい
・「家に帰らないと」と話す場面がある
・声をかけると安心して居室に戻る
これらを踏まえると、Aさんの行動は「徘徊」ではなく、「トイレを探している」あるいは「安心できる場所を求めている」行動と捉えることができます。
この視点に立つと、ケアは大きく変わります。
・トイレまでの動線を分かりやすくする
・夜間の照明環境を調整する
・定時の声かけで不安を軽減する
つまり、「止めるケア」ではなく「できるようにするケア」へと転換されるのです。
ケアの質を分ける“思考プロセス”
BPSD対応で重要なのは、以下のプロセスです。
(1)起きている事実を正確に捉える
(2)本人・環境の情報を整理する
(3)本人のニーズを仮説立てる
(4)根拠に基づいたケアを実践する
現場ではどうしても、「とりあえず対応する」という事後対応型のケアに陥りがちです。
しかしそれでは、同じことの繰り返しになります。
重要なのは、「なぜ起きたのか」を考え続けることです。
自立を支えるケアへ
忘れてはならないのは、認知症の人も、もともとは自立して生活していたという事実です。
現在できないことは、「能力が失われた」のではなく、環境や認知機能の変化によって“できにくくなっている”状態です。
だからこそ、ケアの目的は「管理すること」ではなく、その人が本来持っている力を引き出し、生活を再構築することにあります。
まとめ
BPSDは「困った行動」ではなく、「意味のあるメッセージ」です。
そのメッセージを読み解くためには、事実を丁寧に捉え、背景を分析し、ニーズを導くというプロセスが不可欠です。
この視点に立つことで、ケアはその場しのぎの対処から支援へ、制限から自立支援へと大きく変わります。
現場の一つひとつの場面にこそ、ケアの質を高めるヒントがあります。
BPSDをきっかけに、「その人の生活をどう支えるか」を問い直すことが、これからの認知症ケアに求められているのです。
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